近代ドイツ最高の詩人であるリルケの綴る言葉には、いつもの何気ない風景の中に、光のきらめきや風の香り、生命の鼓動を感じることができます。
特に初期の作品には恋人のために作られた詩も多く、青年であったリルケの、恋人への熱い想いが、選び抜かれた美しいフレーズを通して伝わってくるようです。
生涯を通じて何人もの恋人との恋愛に生きたリルケは、詩や小説と共に多くのラブレターを書いていて、その甘く情熱的な言葉で綴られた手紙の数々もまた彼の作品の一部となり、『リルケ書簡集』として書籍化されています。
人は恋をすると、好きな人と言葉を交わしたり、手をつないだりしたくなるものですよね。触れ合うことができなくても、その姿を目にするだけで、声を聴くだけで、幸せな気持ちになったりもします。
愛の詩人リルケはさらに、
「あなたの姿が眼に見えなくてもいいのです。あなたがこの世にいるという、ただそれだけで私は幸せなのです」
と言っています。
リルケには生涯を通じて愛したルー・ザロメという14歳年上の恋人がいます。
彼女は学者である夫を持ち、さらにニーチェやフロイトなど多くの著名な文学者や芸術家と、愛情を含めた交友をもっている文壇の女王でした。
リルケは彼女に出会ったとたんに恋に落ち、親密な交際を通して芸術的にも精神的にも多大な影響を受けますが、ほどなくして二人には別れが訪れます。
しかし、その後別の女性と結婚しても、さらに何人もの恋人との恋愛を経ても、リルケは終生彼女への想いを断ち切ることはなかったそうです。
ただひたすら愛する人の幸せを想い、姿が見えなくとも、声が聞こえなくとも、この世にその存在が無事であることを願う。
リルケの想いこそ、究極の愛の姿かもしれませんね。
今週の恋愛格言をのこしたのは、オーストリアの詩人で作家のライナー・マリア・リルケです。オーストリア=ハンガリー帝国時代のプラハに生まれ、プラハ大学、ミュンヘン大学、ベルリン大学と、いくつもの名門大学で法学、文学・美術・哲学などを学びながら多くの詩や散文などを執筆しました。
代表作は『時祷詩集』、『新詩集』、『マルテの手記』、『ドゥイノの悲歌』、『オルフォイスへのソネット』など。
1926年にバラの棘に刺された傷がもととなって急性白血病の症状が生じ、2か月後に51歳で亡くなっています。
リルケは、オーストリア=ハンガリー帝国の解体、民族紛争、革命、第一次世界大戦といった激動の時代の中で、多くの画家や彫刻家、作家、詩人、哲学者と出会いました。
特にロシア旅行での文豪トルストイとの面会には多大な感銘を受けたといいます。フランスの彫刻家ロダン、小説家ロマン・ロラン、アンドレ・ジッドとは親交も深く、リルケはこれらの出会いを通じて自らの芸術性・精神性を高めていきました。
また、17歳から3年間にわたって交際していた年上の女性をはじめ、この時代を代表するファム・ファタル(運命の女性の意味。魔性の女ともいわれる)であったルー・アンドレアス・ザロメ、妻となった彫刻家のクララ、その他ピアニストや画家などといった多くの恋人の存在は、リルケの詩作へ多大な影響を及ぼしていることは言うまでもありません。
彼の甘美で抒情的な言葉の数々は今もなお世界中で愛読されています。